snow flake〜罪な恋に落ちて〜


「姫、俺、待っててって言ったよね?」


言いながら、狭いエレベーターの中に一歩足を踏み出してきた。



何かとんでもない事が起きてるのは事実だった。


コクコクと首を縦に動かす。


「じゃ、なんでいなくなったんだよ…?」

どうやら椿は怒ってるらしい。


眉間にしわを寄せて、明らかに不機嫌そうだった。

エレベーターのドアに寄りかかり、組んだ腕の上で小刻みに指を動かす。



言葉に詰まる。



本当の事なんて言えない。



「――――ごめん、なさい…」



それしか言えないでいると、突然視界が真っ暗になった。


優しい柑橘系の香りが鼻をくすぐる。


背中にまわされた暖かい左腕。

頭の後ろにまわされたしなやかな右腕。


耳元に感じる椿の吐息。




エレベーターが閉まり、ようやく気付いた。


椿に抱きしめられた。



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