snow flake〜罪な恋に落ちて〜
遠慮がちに重ねられた唇は優しくて、壊れ物を扱うようだった。
羽根が触れるようなキス。
目を瞑ったのが間違いだった。
五感が敏感になって、触れる椿の温かさとか彼の香りに麻痺していく感覚。
ほんの少し。
わずか、1秒にも満たないかもしれない。
でも、確かに2人の唇は重なって、そこから想いが溢れるようだった。
「これでも、俺の気持ちわかんない?」
キスした唇で問われる。
否応無しに椿の気持ちを認めるしかなくて、首を横に振る。
「そっか…。伝わったなら、充分」
駅まで送ると、椿はエレベーターの開くボタンを押して、歩き出した。
さっきの言葉も、優しい腕も、キスも何事まなかったかのような椿に戸惑う。
温かさを失って、胸の奥が苦しかった。
「姫、おいてくよ?」
振り返り呼ぶ声に歩き出す。
隣に並ぶと、
「俺、本気だから。覚悟してね?」
私の唇をなぞると、その指に自らキスをして、極上の微笑みをくれた。
夢は終わってなんかいなかった。
むしろ、始まりだとさえ思えた。
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