snow flake〜罪な恋に落ちて〜
ス―ッと差し出されたしなやかな手。
遠慮がちに握った手を引かれ、体ごとバランスを崩し椿に抱き寄せられた。
さっきと同じ、柑橘系の香りに包まれる。
「姫、おやすみ。夢で逢おうね?」
今夜一番の甘い言葉。
いつまでも、耳の奥から離れない。
触れた部分が熱を持つのに、冷気に晒されてどんどく冷えてく。
ほんの少し腕に力を入れて、すぐに椿は人混みに消えていく。
一瞬の出来事だった。
さよならも言えなかった。
ありがとうも言えなかった。
抱きしめられた感覚に胸の奥が痛いくらい切ない。
触れた手の温かさに、泣きそうになった。
帰れない。
このままじゃ、私、また後悔する。
気付いた時には駅に背を向けて、私は走り出していた。
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