kiss
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てっきり呼ばれるとしても『片瀬先輩』辺りだと思ったから。

初対面のよくも知らない人間に名前で呼ばれるのは好きじゃない。

そのはずなのに、彼、柳くんに呼ばれるのはいやじゃないかもしれないと思った。


「梨麻先輩」


「だから、なに?」


再び口にされた『梨麻先輩』に少しだけ鼓動が増した。

こんなことは初めてで、声がつい冷たくなってしまう。


「俺…」


言葉を閉ざした柳くんの耳が、頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。

……可愛いかも。


「柳くん」


自分から人に用事なく声をかけることは稀。


「なんですか?」


「…用はないけど…可愛いなって思ったから」


私がそう言うと柳くんは拗ねたような表情をして髪の毛をわしゃわしゃとした。


「男に可愛いは、嬉しくないです」


「そうかもね。私も男の子を可愛いと思ったのは初めて」


今の拗ねた表情も可愛いと思ったけど可哀想だから口にするのはやめておいた。


「……梨麻先輩の方が」


「私?」


真っ赤な顔のままモゴモゴと言葉を口にする柳くんの声を心地いいと感じた。



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