kiss
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教室に荷物を取りに戻ると当たり前だけど誰もいなかった。

いつもだったらゆっくり準備をするけど、今日は違う。

柳くんを待たせちゃいけないと心だか頭だかわからないけど勝手に焦る。

廊下を走ることなんてなかったのに小走りをする私が自分で不思議に思えた。


「先輩っ」


1年生の教室は1階、2年生の教室は2階にあるから柳くんの方が先に昇降口に着いていた。


「ごめんね。待たせて」


急いで来たのは事実だけど、それでも待たせてしまったことに申し訳なさが積もる。


「いえ、わくわくしてました」


上履きからローファーに履き替える。


「わくわく?」


待たされてわくわくなんてするもの?


「はい。梨麻先輩はどんな風にここに来るかなって」


ローファーを履いて柳くんを見上げると、柳くんも私を見ていて目が合った。


「……どんな風って」


「歩いてくるかなとか、もしかして全力疾走してくるかなとか」


全力疾走とか私には似合わなすぎ。


「結果は?」


「息が荒くなるくらい急いで来てくれました」


ふわりと微笑む柳くんに私も自然と顔が綻んだ。



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