【完】冷徹仮面王子と姫。
 やけに時間がかかるなぁ、と思いはじめて割とすぐに、氷室君は戻ってきた。


 明らかに荷物が増えている気がするけれど、勘違いだったら恥ずかしいから、何も言わない。


 いや、勘違いという気は一切しないのだけど、その質問をどう思われるだろうかと考えたら何だか怖くなったから。



「悪い、時間かかって」


「…ううん」



 悪い、たった一言。だけど、あたしを確かに気づかってくれた。



 ここの水族館の、今日一日で見慣れてしまったロゴが入っているから、確実にさっき買ったもののはずなのだけど。


 何も言わないんじゃない。言えなかった。


 どうしても感じる距離。それは、今再び生まれたものではなく、忘れていた頃に、ひょいと頭を出したもの。



 水族館を後にする。


 どうせ淋しい想いを抱えるなら、せめてこの距離感は、置いていきたかった。


< 44 / 223 >

この作品をシェア

pagetop