【完】冷徹仮面王子と姫。
 ほうと気が抜けて、あたしは何も考えず、氷室君の隣を歩く。


 無言の空間に、今は何も感じていない。理由は前文にあり。



「……これ持ってて」


「え、はい?」



 増えていた…気がする荷物を、氷室君はあたしに手渡す。


 その後完全無視体制をとられたその荷物を、あたしはどうすることもできず、先を進む氷室君を追いかける。


 とうとうあたしは、荷物持ちに降格してしまったらしい。


 思えば元に戻っただけとも言えるが、味をせしめれば欲は膨れ上がる一方。これは痛すぎる。



「早く」


「ご、ごめんっ」



 うつむき歩いていれば、次第に開く距離。その奥で彼がどんな表情をしているのかは、夕日が逆光となってつかめない。


 今のは謝るべきところなのだろうか。なんて考えられるのはもちろん謝った後であって。


 とっさにごめんと言わせる氷室君のこのオーラから、まずはどうにかするべきだと思う。


 ロゴ入りの謎の袋は、あたしの両腕に大事に抱えられたまま。


 落とすなんて事があれば、あたしはどうなってしまうだろうか。


 荷物持ちすらクビ宣告を食らうことになってしまう。

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