香物語
ちゅんちゅんと囀(さえず)る小鳥の鳴き声で、男は目を覚ました。

布団の上で上体を起こし、うんっ――と腕を伸ばすと、肩を張り、首を回して凝りをほぐす。

そうするだけで目はバッチリと冴え、頭も働きだす。

最近はずいぶんと朝に強くなったものだ、と思った。

以前までは逆に、夜中遅くまで起きていられたが、その分朝はとことん目覚めが悪かった。

そのくせ徹夜なんかは平気でしていたが。

歳を取ったということなのだろうか。

生活のリズムが安定したのは喜ばしいことだが、少し寂しい気もする。

男はそんなことを思いながら立ち上がると、枕元に置いたペットボトルと煙草のパッケージを拾い上げた。

少量のミネラルウォーターを喉に流すと煙草を唇の端にくわえ、火をつける。

薄い紫煙が上がり、マイルドな香りが鼻孔をくすぐった。

やはり、起きぬけの一本は最高にうまい。

そう思えるのはすっきりと目が覚めているからなのだろうが、それよりも誰に気兼ねすることなく、好きなように吸えることのほうが大きいと思えた。
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