どくんどくん ~SPRING SNOW~
その時、優しい声がした。

「ハル君!来てくれたんだ。ありがとう!!」

顔を上げると、昔から何度も何度も見たゆうじの笑顔があった。




・・・僕は、頭の中が真っ白になった。




ゆうじは、車椅子に乗っていた。




僕は、言おうと思ってたことが何もかも消えてしまった。


助けて、ユキ。

そばに来て。

「ハル君、背が伸びたね。なんだか、大人っぽくなっちゃってびっくりだよ。」

昔のままの笑顔。


ゆうじ、何があったんだ?


どうして車椅子なんだ・・・。

「うん・・久しぶりだな。元気?」 

絞り出すように僕は声を出した。

「うん!僕、ハル君にずっと会いたかったんだ。本当は手紙も出したかった。まさか、まだあの手紙持っててくれたなんて。また会えるなんて思ってなかったよ。」


頼む・・・。


ゆうじ、僕を責めてくれ。


どうしてあの時裏切ったのかって怒ってくれよ。

「ハル君、小学校4年の時僕の牛乳を勝手に飲んだ人に、ハル君パンを投げつけてくれたよね。あの時、ハル君が先生に怒られてごめんね。」

謝るのは、僕の方だ。

「ゆうじ、僕・・・ずっと後悔してた。本当にごめん・・・。」

ゆうじの顔を見ることができない。

「ハル君、5年生の時、体操服貸してくれてありがとう。僕がトイレに閉じ込められたときも探しに来てくれてありがとう。」

もう、やめてくれ。

「ハル君、いつも僕を助けてくれた。ランドセルにセミの抜け殻を入れられた時、クラスのみんなが僕を笑ったことがあったよね。
あの時、ハル君は、みんなの前でこう言ってくれた。『セミの抜け殻いいな~。抜け殻ってかっこいいよな。持ってると強くなれるんだ!僕にちょうだい!』って。覚えてる?」

覚えてないよ。

僕は、君を裏切ったことしか覚えていない。
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