暗黒時代

出会い

春の暖かな日差しが、教室の窓に差し込んでいる。
中学の入学式を終えた翌日、佐野一輝は遅刻しないよう、一番乗りで教室に入った。

「…やっぱ俺が一番か」

自分の椅子に座って無意識のうちに時計を見る。まだ７時過ぎだ。
廊下も教室も、生徒が居てはかなり賑やかなのだろうが、裳抜けの殼である今は、ただただ静まり返っている。
だが、すぐに走って教室に向かってきているような足音が一輝に届いた。

「佐野、早いなぁ…」

息をあげ、一人の男が教室に入って来た。

「えっと…星恩、だっけ？」

彼は額についていた汗を拭い、そ、よろしく、と呼吸を整えながら言う。
一輝が恩ときちんと顔を合わせたのは、今が初めてである。
しかし、この男の存在は強く、一輝も恩という名前をしっかりと覚えていた。恩にはどこか相手を和ませる雰囲気があるのだ。

「あんたも学校来るの早いんだな」
「佐野を追っかけて走ってきたんだよ」

恩は言うなり、荷物を自分の机の中に入れ、一輝の向い側の机に座る。

「同小の奴って何人くらいいるの？」
「同小はもう一人しか…」

恩はにこりと無邪気に笑って見せて「じゃ、俺と同じだな！」と、身をのりだして言う。
一輝の学校も、恩の学校も違う学校だが、分校である。
山の中にあるということあってか、まだ雪が降る時さえある。
だが、一輝の方は、この同じように分校出身の恩に、つんとした顔のまま何の返答も返さなかった。

「なぁ、佐野、俺と友達になんない？」