暗黒時代
恩と沙華がほぼ同時に、え、と口走る。
小野寺も目を丸め、教室にいた生徒全員が騒然とした。

「佐野氏、何言ってんだよ」
「中学生活なんて、これからだよ?帰るなんて冗談でしょ?」

友達となっていた2人が、焦りを顔に出して、説得した。
だが、一輝の気持ちは、揺るがなかった。
もう腹を括った、
とでもいうように、通学用カバンを机にどんとおき、荷物を詰め込み始めた。

「よし、これだけだよな…」

大方の荷物が入り終わり、静寂を保っていた教室に、一輝の声だけがあった。

「おい、カズ!」
「…恩、あの佐野氏には、何言っても無駄だ」

沙華が恩に言った言葉は、もっともだった。
一輝は目付きをかえ、藤原の隣りをすりぬけた。


一輝は、この瞬間から、学校へ来ないと決意し、
この日が中学へ来た最後の日にしようと考え、教室から姿を消した。

中学の校門を抜けると、桜満開の道が、一輝の見送りをしているようだった。
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