恋、時々雨
あの時の親父は今までで一番怖かった。
それでも、勝手に話をすすめた罪悪感からか、先方に会う前々日までに彼女として自分のもとに連れてこられたら、許してやろう、と条件をくれた。
その、タイムリミットが一昨日。
そして今、食事会という名のお見合いの席の真っ最中なわけで。
「達人、あなたも果奈美さんと何かお話なさい?」
母親は普段じゃ絶対に着ないような着物を着て、普段じゃ絶対に使わないような丁寧な言葉遣いで、よそ向きの笑顔を作っている。
父親も父親で、向こうの家族に失礼がないように気を使いまくっている。
両親の必死さが伝わってきて、俺はやはりなるちゃんにフラれてよかったのだろう、と思う。
親父の会社がやばいとか、実際はよくわからない話だけど。