恋、時々雨
「─達…あなた─…」
はなれにつけば、少し声が漏れてくる。
もう少し行けば、ちゃんと会話が聞こえそうだと思って歩みを進める。
でもきっちり扉は閉められていて、中をのぞくことは出来なさそうだ。
なーんだ、帰ろうかな、と思ったその時。
「やっぱ無理」
鈴木の声が、した気がした。
いやいや、ありえないし。
いつの間に、そんな鈴木のこと、気になってたのかな。
あたし頭おかしいのかも。
「ごめん、約束したのに。でもやっぱ無理」
違う、違う。
やっぱり鈴木だ。
どうして?どうして鈴木がお姉ちゃんとお見合い?
何が、無理なの?
「俺、行くわ」
どうしよう、この収集つかない状況。
っていうか、はやくここから逃げなきゃ。
それなのに。
「待ってください」
珍しい、お姉ちゃんの真面目な声にあたしは固まった。
「冷静になって考えてみてください。
私となら、お金も将来も、全部手に入るんですよ?」
お金、将来?何それ。
わけわかんない。
「いらない。
欲しいものは自分の手で捕まえる」
ねぇ、鈴木。
欲しいものって、何?
きみが一番欲しいもの
(期待してもいい?)