【完】最期の嘘
美恵、きっと何か感づいた。



礼治はそんな美恵の思考でさえ、見透かしていた。



美恵は考えている時、癖で髪の毛の右側をかき上げる。



長い付き合いである。それくらいの癖は知っている。



「そういえばさあ礼治、優太さんが髪の毛短くして栗色に染めたの見た?昨日偶然楽器屋で会ってビックリしたんだけど。」



「あー、俺も、染める前、短い姿見た。」



礼治は表情一つ変えずに、砂糖とミルクを信じられないくらい入れたコーヒーを飲む。



優太さん、髪型、変えたんだ…



優太への気持ちがまだ薄れることなく残っている汐にとって、そんな些細な情報でさえ心を動かすものであった。
< 128 / 230 >

この作品をシェア

pagetop