ずっと大好き…この恋は秘密 …
しばらくしてから浅井が口を開いた。
「…これ、沙紀の気持ちの整理が出来たら書いて。
オレの欄はもう書いてあるから…」
浅井がコーヒーしか置いていないテーブルの上に差し出したのは
『離婚届』だった。
「…あたし、書かないから…」
「…」
受け取ろうとしない沙紀に浅井は何も言わなかった。
浅井が伝票だけとり、席を立とうとした時
沙紀が浅井を止めた。
「…本当にもうダメなの?!」
そう言って浅井の腕を掴む沙紀を少し見つめた後
浅井が目を逸らす。
「…事故のことは本当に悪いと思ってる。
結婚をした事も…
だけど…
オレが沙紀を好きになる事は多分ない」
それだけ言うと、沙紀の手を離した。
何も言わない沙紀の横を通り過ぎる時
一度立ち止まり…
「…ごめん」
と、言ったが沙紀の反応はなかった。
浅井が会計を済ませて店から出るまで沙紀は席から動かなかった。
そんな様子を横目に入れながら
浅井は店のドアを閉めた。
また台風でも近づいているのか、
湿気を帯びた風が浅井の体に吹きつける。
雨が降ってきそうな空を見上げてから
止めてある車に乗り込んだ。
…あいつ傘持って来てんのかな。
まだ店から出てこない沙紀の事が少し気になったが…
浅井が車のエンジンをかけた。
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