王国ファンタジア【宝玉の民】
お目当ての人物とは勿論トールである。
カウンターの一番端の壁際に陣取って、既にビールで一杯やっているようだ。
やや薄暗い店内の中でも、相変わらず帽子を目深に被っている。
「いいえ〜、そんなに待っちゃいませんよぉ。
お仕事のほうは間に合ったんですかぁ?」
頷くことでそれに答え、隣の席に座った。
マスターに、ウィスキーと適当なつまみを頼む。
さして間を置かず、注文の品が出された。
グラスを手に取り、トールを見る。
「とりあえず、乾杯しようぜ?」
お互いにジョッキとグラスを掲げ、軽く打ち交わす。
ガラス特有の高い音が響いた。
暫くは、会話も無く酒を飲んでいた。
二杯目も飲み干し、三杯目に差し掛かった頃にトールが口を開いた。
「ダンナは本当に、ドラゴン討伐に参加するつもりですかぁ…?」
「あぁ、明日には王都へ向けて旅立つつもりだ」
「そうですかぁ…、
……ってええぇっ?!」
トールは、平然と言ってのけたドルメックに驚きを隠せず叫んだ。
店内から注目が集まる。
あっと口元を押さえて声を潜める。
「だってダンナ!
今日の明日でもう出発って早すぎませんかぁ?
住み込みで働いてたんでしょう?
荷造りとかは?」
確かに、トールが驚くのも無理はない。
ドルメックの行動は余りにも性急過ぎると言っていい。
ドルメックはグラスを傾け、苦笑しながら答えた。
「俺は盗賊だからな。
足が付いた時、直ぐに離れられるようにいつでも荷物を纏める習慣がついてる。
店の人達にもさっき話は付けてきた。
元々、根なし草でいつ居なくなるとも知れないって断った上で雇ってもらってたしな」