王国ファンタジア【宝玉の民】
ドルメックは頭を掻きながら笑った。
「世話になったな、情報屋。
今回の話だって、あんたが俺の存在に気付いて情報提供してくれなかったら仲間の核石には辿り着けなかった。
情報料だって本当は50万じゃ足りないだろ?」
ちょっと申し訳なさそうに言った。
トールはジョッキを空にして深く溜息を吐く。
「ダンナ〜、そう言うならアタシのことは名前で呼んで下さいって〜。
それに、アタシはダンナの味方ですからねぇ〜。
気にしないで下さいよぉ。
しかも今生の別れみたいな言い方しちゃって〜」
縁起でもないと、少し不機嫌になってしまった。
マスターにビールのおかわりをしながら更に言いつのる。
「お得意様に居なくなってもらっちゃ困りますし〜。
必ず帰って来て下さいよぉ。
それまでに、[民の雫]に関する情報収集はしておきますから!」
ドルメックもおかわりを注文した。
トールの申し出は願ってもないところだ。
今まで、ドルメックにこんなに親身になってくれる相手はいなかった。
というか作れなかった。
自分の正体がばれるのを恐れて踏み込めなかったから。
そんな中で自分の正体を知ったトールの存在。
自分でも意外だったが、独りではないんだという妙な安心感が生まれた。
きっとトールもそんな気持ちなのだろう。
受け取ったグラスをトールに向け、笑みをこぼす。
「じゃあ、俺の協力者に…
取って置きの情報を一つ。
俺の核石の種類は、ルビーだ。
誰も知らない秘密だぜ?トール…」
【宝玉の民】が仲間以外に核石の種類を明かすということは、その者へ対する信頼の証だ。
これが、ドルメックの誠意の示し方だった。
「……ダンナ…」
トールも、ドルメックにジョッキを向ける。
「ホントに、必ず帰って来て下さいよぉ。
ダンナの武勇伝が流れて来るの、楽しみにしてますからねぇ」
「あぁ、わかった。
よし、今日はとことん飲むぞ!」
ドルメックは暫く味わうことがなくなるだろう、酒の味を堪能した。