王国ファンタジア【宝玉の民】
とりあえずは、指一つ動かすのも億劫な身体を叱咤し、その場を離れることにした。
血の臭いを嗅ぎ付けてやって来た他の獣に襲われては、堪ったものではない。
近くを流れている川で、〔Gスネーク〕の返り血を洗い流し、右目を冷やした。
川沿いにある大きな岩に背を預け、一息つく。
空はすっかり白んできていた。
もうすぐ夜が明ける。
未だに痛む右目を押さえ、先程の光景を思い起こす。
(俺は、もしかしたらとんでもなく危険な存在なんじゃないか…?)
――あの場に葦毛が取り残されていたら。
――他に誰かが一緒にいたら。
(あの衝撃に巻き込んで、死なせてしまっていたんじゃないか?)
正直、ゾッとする思いだった。
遠くから、蹄の音が聞こえる。
横目で見やると、葦毛がゆっくりと近付いて来るのが見えた。
「…なんだ、意外と義理堅いな。
あのまま逃げても良かったのに」
そう言いながらも、口元に笑みが浮かぶ。
立ち上がって葦毛の艶やかな毛並みを撫でてやる。
それから、千切れた手綱を補強し、爆風に吹き飛んだ荷物を探し出した。
この森はあまり長居しないほうが良さそうだ。
そう判断して、約一日半。
昼夜問わず走り続け、一気に森を抜けた。
地図と方位磁針を取り出し、位置を確認する。
近くの宿場へ向かう。
葦毛もドルメックもクタクタだった。