夢見な百合の花
どうやらサヨは、思う通りに声が出せない様である。だが、ケイタの言葉は理解出来たみたいで、疑問にも似たニュアンスの表情をしている…。

「あの男の子は、あの時まだ『生きて』いたのに…君は手当をしてあげる事なく、黙って俺達に着いてきたじゃないか。サヨちゃんは、あの男の子を見捨てたんだよ?」

「私が………ヒサを?」

サヨは、次第に冷静さを取り戻していた。声も、出るぐらいには…だがそれは、ケイタの策略でもあった。

「そう、君はあの子…ヒサ君を、見殺しにしたんだよ。君が『見捨てる』事をしなければ、助かったのかもしれないのにねぇ」

ケイタは言葉を選びながら、サヨの心を追い詰めていた。

見殺し…見捨てる…そのどの言葉も、的を得ている様で筋違いの言葉なのだが、今のサヨの心理状態では、真に受けてしまうのは必然である。

何故ならこの時サヨは、まだ13歳であり、こんな駆け引きは当然経験した事はない。

サヨは、次第に顔を青ざめさせ、嗚咽を出し始めていた。

「ケイタぁ…女の子を泣かすのは、ベッドの上だけにしとけぇ!」

「あらら…もう、始めちゃったんだ」

ケイタは苦笑いを浮かべながら、男達に話しかける。この広いホールの中に居ても、微かに感じられる、独特の香りがこの空間を漂っていた…。

「お前はどうするんだケイタ?一本いっとくか?」

男はケイタに、タバコを一本差し出した。そのタバコのフィルターには、銘柄のロゴは着いていなく、明らかに市販で売られているタバコではなかった。
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