夢見な百合の花
これが、最後のケイタへのお願い…せめて、俺の前に姿を現わせないでくれ。

これから先、ケイタが幸せになっても構わない。

金持ちになっても構わない。

だから…俺の前には……。

「元よりそのつもりさ………」

ケイタはそう呟いた。俺はその言葉を聞く前に、応接間から出た。







「ケイタ…今の話は本当か?警察の人に聞いた話と全然違うぞ?」

ケイタの隣で立っていた、男の一人がケイタに話しかける。

「…本当ですよ。警察に話したのが嘘です…少しでも罪を軽くしようと思っていたんで」

ケイタはそう言うと一度笑い声を上げる。そして…俯き加減で、顔を押さえだした。

「…カズヤの妹…サヨちゃんは、未だに意識が戻っていない。ヒサジ君はサヨちゃんを助ける為に俺の所に来た…俺に出来るのは、正確な情報を伝える事。……許しを乞う事なんかじゃないんですよ。俺は……決して許されてはいけないんです」

ヒサジは知らない。知らなくて良い……。

ケイタはこの時、こう考えていた。

「許されない事が、俺の罪を軽くしてくれるんです…」

と…。





ダメだ……今は、何も考えられない。

応接間から出た俺は、タガが外れた様に、怒りの感情に支配されつつあった。

今すぐケイタを殴りに、応接間に戻りたい…。だがそれは、俺の少年院入りの内定を決めるのと同じ意味を持っていた。

それだけは出来ない。俺は…『普通』にならないといけないから。

俺は、足早に少年院の出口に向かって歩いていた。

「ヒサジ君!勝手に歩き回られては困るよ!」
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