夢見な百合の花
サヨはそんな俺の様子にかなりの衝撃を受けたようで、口元に手をやり、大きい眼を見開いて、小刻みに体を震わせていた…。

そして俺は、男の前蹴りが喉に入り、呼吸困難に襲われた。かなり辛いもの食べた時の感覚に似た、喉が焼ける様な痛みと一緒に…。

思わず、俺の動きが止まる。だが、この絶好のチャンスに、男が仕掛けてくる様子はなかった。今まで見せていた冷徹な眼が、今は俺を心配する様な眼に変えている…。

俺は、その様子を見た後、入らない力を振りしぼり、全力で男の顔面めがけて右フックを打ち込んだ。かなりの大ぶりだったので、男には交わされたが、男の表情を変えるには効果があった…。

さっきの心配する様な様子は消え、さっきまで見せていた冷徹な表情に姿を変える…。

それでいい……それでなくちゃ意味がない。

お前の本気でなくちゃ意味がないんだよ………ハヤト。

そう…俺と対峙している男は、ジャッジタウンで同じ時を過ごした、俺の親友…。

ハヤトだった…。










時を遡ること5日前…。

俺は、一つの答えを出し、ハヤトに電話をかけた。そして、ハヤトに頼んだのだ…この作戦を。

「…マジで言っているのかヒサジ?そんな事で、サヨちゃんの記憶が戻るのか?」

ハヤトは真剣に俺の話を聞いた後、そう俺に言ってきた…。

確かに俺の言っている事は、はっきり言えば茶番だ。考え抜いた答えですと言っても、誰も納得しない答えだろう…。

だが…。

「解らない…でも俺には、これしか思いつかないんだ。あのクリスマスイブの日、サヨはケイタに恐怖を植え付けられていた。そして覚せい剤の投与で、記憶が散漫になり、暗示をかけられた…そう仮定すると、一つの答えが出るんだ」


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