夢見な百合の花
サヨの精神は、両親が死んだ日から脆くなっていた。それは、月日で解決出来るものではなかった…。

「サヨの心は病気にかかっていたんだ。現実を逃避する能力…つまりは多重人格。カズヤが以前、俺にこんな話をしてくれた事があったんだ…サヨは、両親が死んだ時、感情をなくした様な様子だったってな。感情が消える…そんな事普通はありえない。人間である限り、理性は必ずあると俺は思うんだ」

感情が消えた様に見えただけ。実際は、サヨの本来の精神とは別の精神がサヨを支配していた…。

だが、カズヤが見た、サヨの感情のない姿は、まだ不完全な精神であり未完成だった。

だから、感情が消えた様に見えた。いつものサヨとは違うから、カズヤは気付かなかったんだ…。サヨの心がすり替わっている事に。

俺は、自分の考えをハヤトに話した。

ハヤトは非常に頭が切れる人間だ…俺なんかより、正確な答えを見つける能力にたけている。俺は、ハヤトの返事を待った。

「…そうか。それで、この答えに行きついたのか…」

「あぁ…サヨの精神を呼び戻すのに必要なのは、『衝撃』だ。俺があの時の様に死にかけ、サヨが俺を助けたいと思ってくれれば、必ず戻ってくる…ケイタの話が本当ならな」

俺を見殺しにした…。

ケイタはサヨに再三、その言葉を擦りこませていた。

その事に関して、サヨが責任を感じていれば、俺を助けたいと思うはずだ。

それが…サヨの精神を呼び覚ますカギになる。

「…俺は構わないぜ。悪役は慣れたもんだからな」

ハヤトはそう言うと、笑いながら俺に言ってくれた。
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