夢見な百合の花
この時、俺の頭の中は一瞬、真っ白になったんだ。

ただ、あまり豊かではないものの、女性特有の柔らかさを額には感じた…とても夢見心地だ。

そんな時、俺の耳にサヨの声が聞こええたんだ。

「…一人は……イヤなの…」

今まで声を発する事がなかったサヨが、確かに言葉を発した。

「サヨ?」

俺はサヨの腕を優しく掴み、ゆっくりと俺の顔を抱きしめている腕を解く…。

そしてゆっくりと上体を起こし、サヨの正面を見据えると、サヨと目を合わせる…。

サヨの眼には動揺の色こそあるものの、恐怖の色は感じない…どうやら、俺の眼の前に居るのは、俺の知っているサヨの様だ。

そう確信した時、俺の中から様々な思いが溢れてきた…。

無意識のうちに身体が震えるんだ…自分では抑えきれない、何かが俺の体から湧き上がってくる。

俺は、感情のおもむくまま、サヨに話かけた…。

「なぁサヨ?俺はサヨを守る事が出来なかったな…絶対に守り切るってカズヤに約束したのにな…」

俺の言葉を聞いてくれてるかサヨ?

「俺は弱かった…今も決して強くはないかもしれない。でもなサヨ…」

サヨは俺の眼を見て、話を聞いてくれていた…そしてサヨの眼には動揺の色はなくなっていたんだ。

サヨの眼には、この前見た時とは違う種類の、涙が溢れ始めていた。
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