夢見な百合の花
「ダメと言われても、俺が困る」

「俺も殴ってもらわないと困る」

だんだんと俺とハヤトの声のトーンが変わってきた。実に淡白な口調になってきているのだ…。

「だったら困れ」

「困れと言われても困る」

「俺も困ると言われても困る」

「だから困ると…」

いよいよ何の話をしているか分からなくなってきている。ミツハルさんはそんな俺達の様子を面白半分で眺めており、言い合いを止める気配はない…。

カズヤはカズヤでサヨとの感動の時間はとっくに終わっており、呆れた表情で俺達のやりとりを眺めていた……らしい。









「本当にサヨちゃんの記憶が戻ったなんて…正直奇跡としか思えないわ」

サヨを病院の病室に連れて行き、俺は俺で病院で切り傷を何針か縫った後、こうして柏木先生の元に足を運んでいた。

「ヒサジ君が考え抜いた方法だって言うから、私も協力したけど…正直言うと期待はしていなかったわ。それどころか、サヨちゃんの症状が悪化する事も考えていたもの…」

「そうですね…自分でも正気じゃないと思いますよ」

トラウマを抱えた子に、まったく似た状況を再現し、見せた訳だからな…はっきり言って正気の沙汰ではない。

「それにヒサジ君が言っていた、サヨちゃんが多重人格だって話も信じられなかった。記憶喪失という症例も稀だけど、この一年半もの間、ずっと同じ人格で居る事の方がまずあり得ないと考えていたしね…」
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