夢見な百合の花
柏木先生は頭を抱えながらも、少し嬉しそうに話していた。

確かに柏木先生の言っている事も解る。俺の仮説通りに考えてみると、サヨはこの一年半もの間、別の人格で暮らしていた事になる。

それはそれで、かなり有り得ない気がする…。

「確かに…でももう良いんですよ。サヨは俺の事を名前で呼んでくれた…俺にとってこれ以上の有り得ない事はないんですから」

「ふふっ、そうね。でも一つだけ、胸に秘めていて欲しい事があるわヒサジ君」

「…何ですか?」

柏木先生はそう言うと、優しい中年女性の顔から、医者の顔になった。

「それは、サヨちゃんの病気が『治った』訳ではないと言う事。きっかけがどうであれサヨちゃんの人格は今は戻っているけど、いつ前の状態に戻るか私にも分からないわ…これからが、本当の戦いだって事だけは覚えておいて」

「はい、解りました」

確かには…改めて気を引き締めなければいけない。

柏木先生に言われ、気を引き締め直していた俺だが、次の言葉に拍子抜けしてしまう。

「でもこれからは私の仕事だから、ヒサジ君はサヨちゃんの身を常に案じてくれれば良いわよ。今はまだ入院してもらわないといけないけど、このまま症状が安定すれば、すぐにサヨちゃんは退院出来ると思うから」

「えっ?でも…俺もサヨの為に何かしないと」

「ヒサジ君はただサヨちゃんの側に居てあげればそれで良いのよ。それがサヨちゃんにとって一番の薬になるから」

俺が側にいる事が一番の薬か…是非そうであってほしいな。

俺と柏木先生廊下で話していると、サヨの病室からカズヤが出てきた。

「ヒサジ、サヨが話があるんだと。少し来てもらえるか?」

「サヨが?解った、すぐに行く」
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