夢見な百合の花
カズヤと入れ替わりになるように俺はサヨの病室に入った。カズヤ自身は、柏木先生と何か話を始めたみたいで、病室に戻ってくる気配はない。

病室にはサヨがベッドに腰かける様に座っている。俺の顔を見ると小さく笑い、声をかけてくる…。

「ヒサ…ここに座って?」

サヨは隣の開いたスペースを指差し、俺に座る様に呼びかけてくる。俺は返事の代わりに軽く笑いかけ、サヨの隣に腰かけた…。

「気分はどうだサヨ?」

「大丈夫だよ…ちょっと不思議な気分だけど」

「不思議?」

サヨはうんと前置きを置くと話出した。

「これが現実なんだと思うとね……私には今の状況が夢なんじゃないかって感じるの」

サヨはそう言うと、自分の髪の毛を触りながら静かに語りだした。

「サヨの髪の毛がこんなに伸びているのも違和感を感じるし、立った時の視線も違う…ほとんどがサヨの知っているサヨじゃないから」

「そうだな…あの日から一年半も経っているし、サヨも俺も成長したから、違って感じるのは仕方ない」

確かにサヨの外見はあの日から大きく変わっていた。身長は160㎝ぐらいあると思うし、あの日から更に髪の毛も伸びている…顔は相変わらず綺麗だが。

まぁ年相応に成長しているだけなんだが、サヨにとっては一気に老けた気分なのだろう…。

「そう…だね。でもサヨはこっちの夢の方が嬉しいな…」

サヨはそう言うと俺の手に手を重ね、握り締めてきた。
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