夢見な百合の花
この現実の世界に身を置く事になっても、まともな仕事にもつけない。全て、覚悟していた事だった…。

でも…これで。

「ヒサジはどうしたい?学校に行くか?」

院長先生は今度は問いただす様に、俺に聞いてきた。多分、俺の返事を知ってて聞いているだろうが。

「…もちろん行くよ。せっかく俺の為に頑張ってくれたのに、俺がそれを棒に振る訳にはいかない。…それに、サヨの居場所を学校にも作っとかないとな」

院長先生は俺の返事を満足そうな表情で聞いていた。

俺はこの後、夏休みが終わる九月までの時間を精一杯過ごす事にした。日中はサヨのお見舞いに行き、家に帰ると、院長先生に用意してもらった、まったく勉強をしていない二年間の教材を広げ、勉強に明け暮れた…。

サヨは相変わらず俺の事を覚えてはいないが、それでも俺を『良い人』と理解してくれたらしく、俺に会うと笑顔を見せてくれる様になった。

そんな中、サヨ以上に悩ましい事態が起きた。

それは…。

「はぁ…さっぱり解らねぇ」

教科書を広げて勉強をしてみてはいるが、全く理解出来ない…。

数学は数式を頭に叩きこめば、問題は解ける。でも、牛歩というか、二年のブランクはそう簡単には埋まらなかった。

それに、社会や理科は、完全に暗記の世界だ…教科書の厚さを見ただけで、具合が悪くなった来る。

英語なんて、be動詞で俺の知識は終了しているし…マジでヤバいぞこれは…。
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