夢見な百合の花
保健の先生は椅子から立ち上がり、疑る様な眼で俺を見てきた…。

「違いますよ。俺はケンカの場にたまたま居合わせて助けただけです…そうじゃなかったら、わざわざ保健室に運んだりしません」

取りあえず俺は、動けないくなっているタクヤを開いているベットの上に運んだ。タクヤは俺にされるがままに、ベッドの上に横たわる…。

「…ありがとう」

今まで黙っていたタクヤが、ここで初めて口を開く。

「気にするな。ただの気まぐれだからよ…」

これは俺の本音だった。ジャッジタウンに居た頃は、こんな風に倒れている人間なんて日常茶飯事だったから、いちいち介護していたらキリがない。

ただ今回は、ジャッジタウンでの話ではないし、ケンカを俺が見てしまったうえに、コイツが助けてほしそうな表情をしていたから助けた。

「…本当に君がやった訳ではないみたいね。一体誰がこんな事をしたの?」

保健の先生は、消毒液や絆創膏など、傷の手当の道具を用意しながら俺に聞いてきた。

「知らない奴です…」

「そんな訳ないでしょう。同じ学校の生徒なんだから…黙っているから、正直に教えなさい」

保健の先生は表情を曇らせながら、俺を問い詰めてきた…。どうやら、俺が知ってて嘘をついていると思っているらしい。

「本当に知らない奴なんですよ。俺は今日、学校に復学したばかりなんでね…」
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