夢見な百合の花

「イサミはケンカの常習犯で、この学校の問題児だろう。でも、この学校にちゃんと来ている…先生にはこの意味が解るか？」

「………」

イサミを庇う気にはならない。アイツはクズだ…人とナリは知らないが、恐らく俺の思っている通りの人間だろう。

でも、だからこそ解る。出来そこないの心理って奴がな…。

「アイツはこの学校に自分の『居場所』を見つけている…それが奴がこの学校に来ている理由だ。…居場所を消された不良の末路は、限りない闇…それを先生は理解していない」

俺は、何も話さない先生に背を向ける…そして保健室の出口に向かって歩いた。そして出口の前で止まる。

「もちろんアイツのしている事は人に褒められたものじゃない。言ってしまえば、殺人未遂…でも、この『居場所』があるこそ未遂で終わっている。俺はそう思うけどな…」

俺はその言葉を残して保健室を後にし、自分の教室に向かって歩き出した。イサミ…あいつもこの現実世界を彷徨っている闇。

闇と闇は同じ空間に居れば、溶け合うもの。

この出会い…ケンカは避けられないかもしれないな…。




「…随分と好き勝手言ってくれたわね。」

保健の先生はひとつため息をつくと、タクヤの座っているベッドに腰掛け、タクヤの治療を始めた。

「でも、あの子の言っている事も間違ってないわ。見捨てる事は誰にでも出来るものね…」

「…でもあいつは、この学校で問題ばかり起こしている。先生の判断は正しいと思いますよ俺は…」

タクヤは保健の先生に顔を預けながらも、視線を外に向け、話出す。

「判断…と呼べるのかしら。ただ見捨てているだけの様な気もしているのよ…ヒサジ君に言われてから気づいた事だけどね」

先生はそう言うと、手慣れた手つきでタクヤの顔を治療し、道具を片付け出した…。

「治療は終わったわ。大丈夫だとは思うけど、もし頭痛がするようなら少し横になりなさい。」

「いえ…教室に戻ります」

タクヤはそう言って、先生に一度頭を下げると、保健室を後にする。その様子を確認した後、先生はポツリと呟いた…。

「…ヒサジ君か。純粋な中学生ではないみたいね」