夢見な百合の花
忘れはしない…野良犬の様に、現実から逃げていたあの日の事は…。

自分が嫌になるくらい小さく、そして弱かった俺…自分では消化できないぐらいの罪悪感で押しつぶされそうになっていた時に銀次さんに出会ったんだ。

「あの時俺は、お前に弱いと言った。それは、自分の弱さを知って、初めて現実と向き合う事が出来るという意味だったんだが…自分と向き合う覚悟は出来たか?」

普段はくだけた物言いで、周囲を困らせる人だが、この時の銀次さんには、その雰囲気は皆無だった。

あの時と同じく、真剣に俺と向き合って話をしてくれていた。

「覚悟は決めたよ…もう迷わない。俺は、自分の手で時間を取り戻す」

俺は、真剣に向き合ってくれている銀次さんに答える様に、しっかりと銀次さんの眼を見据え、答えを発した…。

迷いはない。俺は『親友達』に教えてもらったから…大切な物は自分の手で取り戻すという事を。本当の意味での守るという事をな…。

「そうかい。まぁ、ヒサジならきっと乗り越えられるよ。もしかしたら、もう会う事もないかもしれないな…あっちでも元気でやれよヒサジ!」

銀次さんはそう言うと、俺に背を向け、駅の出口に向かって歩き出す。

「あぁ!本当にありがとう銀次さん!」

俺は最後に銀次さんに向かって頭を下げた。人に頭を下げる…謝るという意味では無く、感謝の意味を込めた礼。

俺の人生では、初めての行為であった…。

「頭は下げるなヒサジ。俺とお前は『ダチ』なんだ…ダチに頭を下げるなんて変だろ?」

銀次さんは振り返る事なく、俺にそう言った。

「…また会おうなヒサジ」
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