夢見な百合の花
友達なんていない俺は、帰りも当然一人だ。廊下で楽しそうに話している人をうまく避けながら、下駄箱に行き、靴を履く。

病院は5時になると、面会時間が終わるので、早くサヨの見舞いに行かないといけない。

今日は6時間授業、で時間はすでに3時半。病院までは徒歩で30分はかかる距離なので、急いがないとすぐに面会時間が終わってしまう…。

少し急ぐか…。

俺は軽く早いペースで歩き、校門に向かっていると、見た事ある連中がたむろしていた。

説教は終わったのか、イサミ達は校門を通る人間に睨みをきかせながら周りを窺っている。

俺は特に気にしない様に、校門前まで行くと、イサミの眼が俺に止まった。

その眼は、敵と対峙した人間に見せる明かな威嚇を感じさせる目線であり、俺も視線は合わせていなかったが、ビリビリと気配を感じとっていた。

そして俺が校門の前にさしかかると、当然の様に、俺の前に躍り出た。

「…ちょっとツラかせ」

「断る。用事があるんでな…」

俺は、前で進行の邪魔をしているイサミの横を通り抜けた。そしてある気配を感じて動きを止める。

「…お前は、その拳で後ろから人を殴るつもりか?」

「お望みとあればな…それにしてもよく気づいたな?」

俺は後ろを振り返ると、イサミが拳を振り上げ、今まさに殴りかかろうとしていた…。

「後頭部を鈍器で殴られて入院するハメになった経験があってね。その日から、背後の警戒を怠った事はないんだよ。それと、殴って欲しいなんて思ってないから…じゃあ俺はこれで…」

こんな馬鹿に構う時間があるなら俺は、さっさとサヨに会いたいんだ。

視線をビリビリと感じながらも俺は、校門を出ると、サヨの病院がある方角へ歩いて行った。
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