夢見な百合の花
銀次さんはその言葉を残し、駅から姿を消した…。

俺はそんな銀次さんが出て行った出口をしばらく見つめ、駅の改札に向かって歩き出した。

これから俺の戦いが始まる…。

時間を取り戻す戦いがな。











「おかえりヒサジ。ずっと待ってたよ…」

「院長先生……ただいま」

電車を何度も乗り継いで、俺は地元に帰ってきた。

駅から俺の住んでいた孤児院は歩きで20分ぐらいで着く。俺は久しぶりに見る故郷の町並みを、記憶と照らし合わせながら歩いて行った。

そして、俺はこの孤児院に帰ってきた。

院長先生は、昔と変わらず、笑顔で俺を出迎えてくれた。そして…。

「遅ぇよヒサジ。随分待ったぜ…」

「カズヤ…悪い」

サヨの実の兄貴にして、俺の孤児院での兄貴。幼少期の俺の理想の男性でもあるカズヤが、俺の帰りを出迎えてくれた。

「ホントだよ…一年半も待たせやがって。ちゃんと埋め合わせしてもらえるんだよな?」

カズヤは意味深な表情で俺に埋め合わせをしろと言ってきた。もちろんそれは嫌味で言っている訳ではないだろう。

「あぁ。俺の全てをもって埋め合わせをするよ…その為に帰ってきたんだからな」

俺の返事を聞いたカズヤは、今度は満面の笑顔で頷く…そして。

「おかえりヒサジ…」

おかえりと、言ってくれた。
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