夢見な百合の花
終わりの知れないタイムリミット
「俺の解るように説明して下さい…」

俺には柏木先生の言っている意味が解らない。何がいけないってんだ?

「そうね…ちゃんと説明するわ。簡単に言うと、サヨちゃん自身はまだ人形のままって事なの。つまりは、自分で死を望んでいる…なんとなく解った?」

サヨが人形のまま…死を望んでいる。

そうか…。

「記憶が戻った時に、また自分の死を望む可能性が高い…って事か」

サヨの病気の発端…つまりはあの血のクリスマスの日に、サヨは俺とカズヤが死んだと未だに勘違いしている。

両親も小さい頃に事故で亡くし、その上、兄弟みたいに一緒に暮らしていた俺や、最愛の兄も死んだとサヨが勘違いしたサヨが心の死を強く望んだ。それが原因で、記憶を失う…そして人形になった。

サヨの何かがきっかけで記憶を戻しても…。

「その通り…サヨちゃんはまた死を望むわ。それも今度は自分の手でね…それを回避する一番の方法が、記憶を取り戻した時に近くにヒサジ君やカズヤ君のどちらかが居る事なの。もし万が一、夜遅くにサヨちゃん一人の時に記憶を取り戻したら最悪よ…考えたくもないけどね」

俺もそれだけは考えたくもない…考えなくても結果は見えている。サヨが記憶を取り戻した時に誰かが駆けつけて、一件落着なんて安易な考えは俺には出来ないから。

絶対にサヨの記憶は取り戻さないといけない。万が一は、1%もあってはならないのだ…。

「その顔色を見る限り、事の重要性は理解してくれたみたいね。そう…安易な考えは絶対にしてはいけないの。心の病気は何が起きてもおかしくないから…常に注意を払ってサヨちゃんの治療にあたらないといけないわ…」

柏木先生は常に先を読んでいる。本当にすごい…。

そして俺はなんて浅はかだったんだ。サヨがこうなったキッカケ…少し考えれば解りそうなものだ。
< 40 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop