夢見な百合の花
サヨの記憶が戻るのは俺とカズヤの願いだ。

そしてサヨの感情は少しづつ戻ってきている。

でも、サヨの記憶を戻すだけでは駄目。記憶を戻すだけでは、あの日のサヨに逆戻りするだけで、意味がない。カズヤの惨状を見て、発狂したサヨに…。

タイミングが重要なんだ。謝った記憶を正規の現実に戻すな…。

「解りました。でも、俺には何もすれば良いか解りかねています…柏木先生…俺は何をすれば良いんでしょうか？」

俺がこの町に帰ってきた時、サヨに会って、一つの手ごたえを感じていたんだ。それは、サヨの記憶を取り戻すきっかけにもなると思っていた事。

それは…

「あのクリスマスの日、俺とサヨはカズヤのプレゼントを買うために町に行きました。そしてサヨは自分の意志でプレゼントを選んだ…それがこの赤い毛糸のボウシです…」

あの日の出来事が切っ掛けで記憶を失ったのだとしたら、あの日の事を連想出来る物を見せればいい。俺はそう思っていた…そうすれば、何かしら進展があると思ったんだ。

「これをサヨに見せたんですが、何も変化はありませんでした…」

ただ帽子を眺めて終わり。すぐに俺の顔を見て、首を傾げるんだ。

だうしたの？って俺に問いかける様に…。

サヨのその顔は、俺の憶測が見事に外れた証拠だった。

「あの日に連想する品物ね…確かに良い方法だわ。これからも思いついたらその方法を試してみてヒサジ君」

「…え？サヨには何も変化がなかったんですよ？別の方法を試した方がいいんじゃないですか？」
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