夢見な百合の花
「別の方法はもうこの一年半で試したわ。あと試していないのは、あのクリスマスに起きたサヨちゃんとヒサジ君の二人きりの時の事だけ…それが、鍵になっていると私は思うのよ…」

他の方法はもう試したのか…そうだよな。この一年半という時間はそれだけの時間だ。

でも、目に見えた効果は得られなかった。だから、カズヤは俺の事を必死に探していたのかもな…。

「出来る限りの記憶を思い出してみます。それがカギになっているのであれば…」

それしかない。思い出せ…あの日の事を。






中庭を歩いていた俺とサヨは、夕日がきれいに見えるベンチに腰かけた…。

ゆったりとした風がどことなく、サヨの長い髪を空へと誘う。サヨはこの綺麗な夕焼け空を眺めていた。

その顔には、喜びや悲しみといった表情は見えない。何か考えふけっている様なそんな表情をしている。

「サヨ?何か悩みでもあるのか?」

取り合えず話しかけてみる。遠い記憶を呼び覚ますきっかけを探すために…だが、サヨからの返事は何もない。俺の声が聞こえなかったのか、何もリアクションを取る事はなかった…。

「…?何か見えるのか?」

再度声をかけてみるが、サヨは俺の事を完全に無視している。空を食い入るように眺め、空では無い『何か』を見ている様に…。

そして…。

「…あ…………うぁ…」

「…えっ!?」
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