夢見な百合の花
サヨが何かを話しだした。聞き取れる声量ではないが、確かに今声を…。

「どうしたんだサヨ!?」

隣で空を先ほどと変わらず見上げているサヨに、俺は精一杯の声をあげ呼びかけた。

すると、テレビのチャンネルが変わったかのように、サヨの表情は一変、ひどく驚いた表情で俺を見る。何が起きたか分からない様な表情で…。

「何かあったのかサヨ?今、何を思い出していた?」

俺はサヨを勢いあまって、問い詰めるような勢いで話しかけていた。サヨの華奢な両肩に手をかけ、強引に顔を近づけて…。

するとサヨは次第に驚いた表情から、引き攣った表情に変化させていた。だが、俺はそのサヨの変化にこの時気付けなかったんだ…。

「何でもいいから教えてくれ!今、何を口づさんでいたんだ?」

俺は焦っていた。この町に帰ってきて二週間が経ったのに、何も切っ掛けを見つける事が出来ない自分に…。

サヨの記憶のカギは、恐らく俺しか知らない事だ。あの日、一番近くに居たのは俺だから…なのに俺は、あの赤い帽子意外、何も思いつかない。

早くサヨをこの世界に引き戻したい…その一念がこの時の俺の判断能力を鈍らした。

そう…サヨは完全に俺に対して恐怖を抱いていることに気付けなかったのだ。

そして、気づいた時には…。

「っ!?サヨ…?」

サヨが俺の胸を小さい力で突き飛ばした。涙を溜めた顔で…。

そう…サヨは俺を完全に拒絶していた。
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