夢見な百合の花
俺は静かにベンチから立ちあがる、そしてサヨの逃げて行った、中庭の出口に向かって歩き出す。

俺がちょうど出口から出た頃には、騒ぎを聞きつけてやって来た、柏木先生と鉢合せる。

「何があったのヒサジ君!?これは一体…」

男の先生から、サヨを引き受けた柏木先生は、サヨを優しく抱きよせながら、俺に問いかける…。

サヨはというと、俺の存在に気づき、ひどく怯えた表情をしていた。

そのサヨの表情を見て、俺は初めて表情を曇らせたと思う。俺はそのサヨの顔をいつまでも見ている事が出来なくて、俯いてしまう…。

「…見ての通りです。俺がサヨを傷付けた…それだけなんです」

俺は柏木先生に一つ、礼をすると、病院の出口に向かって歩いて行った。

「ちょっと待ってヒサジ君!言っている意味が解らないわ!何が起こって、こんな事になったの?」

俺の背中からは、柏木先生の困惑した声が聞こえてくる。俺は一度足を止め、振り返る事なく、柏木先生に話した。

「俺がサヨを困らせる様な事をした。それだけです…俺はしばらく病院には顔を出しませんから。サヨの事をお願いします…」

これだけ話し、俺は逃げる様に、病院を後にした。

しばらくはサヨに顔を出せない。サヨを怖がらせる結果になるから…でも。

「…サヨの心の鍵は必ず見つける」

これだけは投げだす訳にはいかない。それが、俺の『最後』の責任だからな…。
< 45 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop