夢見な百合の花
あらかじめ飛んでくる場所が解っている拳を躱すのは、そんなに難しい事じゃない…。

俺は、顔面めがけて飛んでくるイサミの拳を、適当に躱し、背後に回った。そして、がら空きの背中を突き飛ばす…。イサミは勢いあまって、頭から壁に激突した。

イサミはと言うと、今の俺の行動で完全にブチ切れたみたいだ…ゆっくりと立ち上がり、俺の顔を凄い顔で睨みつけてくる。

「もうキレた…殺す」

イサミはそう言うと、また俺に向かって走ってきた。だが…。

「ストップだ…騒ぎを聞きつけて、先生が来たぞ?」

二、三人の先生が、俺達の方に走ってくる。

学校の中…しかも、廊下のど真ん中でこんなに大声を上げ、騒いでいたらすぐにバレるのは目に見えている。

「関係ねぇ!すぐに終わるからよ!」

それでもイサミは、俺に向かって走ってこようとしたが、イサミの隣に居た男がイサミを手で止めたんだ。

「雲行きが怪しい…これ以上ここでやり合うのは得策じゃないよ。それに…ヒサジは俺が思っていた以上に強い。出直した方が良いよイサミ…」

「ちっ!…しゃあねぇな」

あれだけ怒っていたイサミだったが、隣の男の言う事には素直に従った。

そういうとイサミは、そのまま階段を下りて逃げて行ったんだ。…隣に居た男を残して。

「お前は逃げないのか?」

「俺かい?俺はケンカをしていた訳じゃないから、逃げる必要はないよ」
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