夢見な百合の花
ヒデは驚いた表情のまま、俺の方に向いてきた。

「最後の膝蹴りは、額めがけて打ったからな…鼻は潰してねぇよ」

本当は、最後まで躊躇した。鼻に目がけて打つ気だったからな…でも、コイツにはこれで十分だろう。

ここはジャッジタウンではないし、鼻を潰したとあっては、問題事になりかねんしな…。

俺は、倒れているイサミに近寄り、話しかけた。

「おい…聞こえてるか？」

意識はある。だが、イサミの視線がまだしっかりと定まっていなかった…。俺は、そんなイサミの顔を軽く引っ叩く。

芯に響かないように、痛みだけ感じる様な叩き方で。するとイサミは、急に意識をはっきりさせたようで、俺の方を勢いよく向いた。

だが、首を痛めたようで、すぐに首を押さえ、痛そうな表情をする。

「解ったか？これがお前が普段やっている暴力だ…自分より弱い奴を倒し、自分の欲求を満たすだけの独りよがりだ」

イサミは俺の視線に耐えきれなくなり、視線を逸らした。

俺の思っていた通りだ…手を合わしてみて改めて解った。イサミは、俺等側の人間ではないと…。

今まではケンカで負けた事がなかったんだろう。だから、自分の力を試してみたくて、誰かれ構わずケンカを吹っかけていた。

そしてイサミにとって幸運だったのは、周りにケンカが強い奴が居なかった事だ。

人の殴り方も知らず、ただ怯えている人間を倒していただけ。まともに反撃もされないで勝つ…すると、自分が強いと勘違いするんだ。

手加減も知らず、ケンカをしまくる。その結果、無抵抗な人間を殴り、殺してしまうんだ…手加減の仕方を知らないからな。
< 64 / 132 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop