夢見な百合の花
だからイサミには、知ってもらわないといけない。完全に道を踏み外す前に…。

俺は、視線を外しているイサミの髪を掴み、無理やり俺の顔に向けさせた。

「ケンカをするななんて偉そうな事を言う気はない。ただ、一つ覚えておくといい…一方的に殴られる人間の恐怖ってやつをな。そして、お前の拳にもそれだけの重さがあるって事を。…体の傷はいつかは癒えるが、心の傷は簡単には癒えないんだよ」

俺は、掴んでいたイサミの髪を放し、立ち上がった。そして俺は自分の知る限りの、不良のあり方をここに居るみんなに話した。

「ケンカは本来、自分のプライドをかけた戦いだ。自分がケンカを売り、相手がそれを買う…その両者の同意があって、初めてケンカが成立するんだ。イサミ…お前がやっている事はただの弱い者イジメなんだよ」

イサミは俺に何も言い返す事無く、うなだれてしまう。そして、しばらく黙った後、イサミは呟くように話しだした

「…なぁヒサジ。お前は…一体何者なんだ?」

そう言うとイサミは、つっかえ棒がとれた様に口早に話しだした。

「お前は、ついこの間まで、入院していたんだよな?なのに何でこんなにケンカが強いんだ?自分で言うのもなんだが、この俺がお前の攻撃が早すぎて見えなかったんだ!どう考えても、これはおかしいだろ?」

「それは俺も同感だね…最初の肘でイサミのテンプルを狙った一撃なんて、特に凄かった。踏み込む速さや、左腕を巻き込んで、威力を最大限に引き出した肘鉄…とても、リハビリ明けの人間の動きじゃない」

イサミの怪我が大した事ないと、確認した後、ヒデも俺にある種の疑いの目を向けていた。その眼には、ありありと、俺が嘘をついていると確信している様な雰囲気を感じる。

「それにヒサジのケンカの技術は、格闘技で覚えた技術ではない。明らかに、修羅場を何でも潜り抜けた人間の動きだ。教えてくれないかヒサジ…一体何処でそんな技術を手に入れたんだ?」
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