夢見な百合の花
イサミはヒデを驚いた様な表情で見る…。

「俺も最初は解らなかったんだ。親父は、イサミの事をかわいがっていた…なのに、何でイサミを遠ざける様な事を言ったのかをね…でも理由はすぐに解った。」

そうか…やはり、ヒデの親父さんはイサミを可愛がっていたのか。どうやら俺の憶測は間違っていないようだ。

「…理由って一体なんなんだヒデ?俺には今だにわからない…」

「それはねイサミ…ケンカ…だよ。」

そうだ…間違いなく、イサミのケンカが原因だ。

「意味わかんねぇよ!何で、ケンカが原因でそんな事言われなくちゃいけないんだよ!」

イサミは、叫ぶ様にヒデに突っかかって行った。胸倉を掴み、壁に押し付ける様にして…。

「まだわからねぇのか?ケンカと格闘技は違うってヒサジが言っただろうが…」

ヒデは、急に声音を変えると、イサミに掴まれていた胸倉を勢いよく退かした。

そのヒデの急な変貌に、イサミが驚く。

「格闘技はな、ケンカをする為の道具じゃない…ヒデはただ強くなりたかっただけだろう?そして、町でケンカを売られれば、喜んでボクシングで身に着けた『凶器』を使うだろうが?…違うか?」

ケンカで身に着けた格闘技を使う…それはまぎれもなく凶器を使うのと一緒だ。ボクサーの拳は、武士が身に着けている刀と同じなんだ…人を簡単に殺す事が出来るという意味ではな。

「俺は、イサミにケンカを辞めれとは言えない…それに俺が言ったところで、簡単に止めるとは思えないしな。だから、イサミにヒサジとケンカをしてもらったんだ…いつか、ケンカの強い人間に出会う…そうすれば、拳の重さにいつか気づくと思ってな」

そう言うと、ヒデは俺に向かって、軽く頭を下げた。
< 69 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop