夢見な百合の花
「まぁな。あいつは知識はあるから、簡単な事なら教えてくれるぜ。筋トレやロードなんかは、ヒデがメニュー作ってるんだよ。それがまた、きついのなんのって…」

イサミはそう言うと、ヒデの鬼っぷりをくどくどと話しだした。

俺は適当に相槌をしながら、イサミの話を聞いていると、ある光景が目に入った。

それは、ただ校庭で何気ない会話をしている様にしか見えない男女の姿…。

だが、俺には何気ない会話をしている様には感じられないのだ。それは…。

「あれは…サヤか」

最近は毎日の様に学校に来ているらしいサヤが、その輪の中に居る。学校の中に居る俺には話声までは聞こえないが、対人恐怖症のサヤが会話をしている…。

「サヤ??一体誰の話だ?……あいつ等と知り合いなのか?」

イサミは、俺の目線を追うと、俺に訪ねてきた。

「一人だけな…他の奴は知らないが」

「ふーん…俺は逆に一人以外なら知っているぜ」

イサミはそう言うと、注意深く様子を観察し、俺に話してきた。

「ありゃ二年の調子に乗っている連中だな。大方、俺が居なくなった後の後釜を狙ってるんだろう…今のうちに、縄張りを広げようって算段だなあれは」

「イサミの後釜?それなら、サヤを狙っても意味ないだろう?」

サヤは、不良の世界とは全く無関係な存在だろう。

「意味なんてないんだろうぜ。俺がケンカを辞めたのは学校中知れわたっちまったからな…これで事実上、三年の覇権争いは終わったんだ。だからあいつ等は、自分たちの力を誇示したいだけなのさ。まずは弱い所からな…」

「ちっ!そう言う事か…」

イサミは良くも悪くも、この学校の暴君だった。生意気な奴は、片っぱしから叩きのめし、名実ともに学校の頭だった。

そのイサミがケンカを辞めた事により、学校内の均衡が崩れたのだ。つまりは、怖い者がいなくなり、恐れる事がなくなったって訳か…。
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