夢見な百合の花
不思議そうに袋を開けたサヨは、中身を確認すると、途端に表情を明るいものにした…。

俺が買ってきた物はぬいぐるみである。愛らしい表情をしたクマが、一輪の花を大事そうに持っているぬいぐるみ…。

サヨのイメージにピッタリな花。百合の花を携えたクマのぬいぐるみである…。

サヨはそのぬいぐるみを引っ張り出し、顔にすり寄せながら、目を細めた。どうやら、俺のプレゼントは気にいってもらえたようだな。

「サヨ、気にいったか?」

カズヤはサヨの嬉しそうな表情を見ながら、笑顔で問いかけた。

サヨは、カズヤの言葉を聞き、大きく頷いた。俺の渡したクマのぬいぐるみにも問いかけている様にも見える。

「それは、ヒサジが悩みに悩んで決めたぬいぐるみだ。良かったなサヨ…」

カズヤもサヨも嬉しそうな表情で話をしている。だがそんな中、俺だけは心が晴れやかではなかった。

プレゼントを喜んでもらえたのは正直凄く嬉しい…。孤児院で一緒に暮らしていた時もあまり見れなかったサヨの笑顔を、間近で見れた事にたいしてもな。

でも何か俺の中でしっくりこない…。

カズヤがジャッジタウンで言っていた事が良く解る…。この笑顔はサヨの笑顔であって、サヨの笑顔ではない。

この晴れやかな笑顔はサヨの本来の笑顔ではない。

俺の知っているサヨの笑顔ではないのだ…。
< 8 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop