夢見な百合の花
サヤは、今までの遠慮した話し方が嘘の様に、スラスラと話しだした。

「それに、私にとって友達との会話は学校での生活で一番楽しい時間だったんです。あの日が来るまでは…」

サヤはそう言うと、きっちり着こなしていた制服のシャツをめくり、俺に腕を見せてきた。

「っ!?」

俺はサヤの腕を見た時、言葉を失ってしまった。思わず自分の眼を疑ってしまうぐらい、信じられない光景だ…。

「はい……これは火傷の後です」

サヤの腕には誰が見ても解るぐらい、酷い火傷の痕があった。俺は根性焼きは見た事があるが、それとはまた違う火傷の種類。

かなりの広範囲に及ぶ火傷の後を見る限り、これは火による火傷ではない…これは、熱湯による火傷だ。

「…誰が……こんなひどい事をしたんだ?」

本当なら、サヤ本人に聞くべき事ではない…。でも、俺は我慢が出来なかった。

俺が言うのもあれだが、サヤはまだ中学生だ。しかもこの火傷は最近出来た、火傷ではない…。

明らかに、かなり昔の傷痕だ。

「……父です。もう父親ではありませんが…」

サヤはそう言って、捲っていたシャツを元に戻し、またきっちりと制服を着こなした。

これで、サヤがきっちりと制服を着こなしていた理由を理解出来た。サヤは、ただ単に真面目な学生だから、制服をきっちり着こなしていたわけでなない…。

サヤはこの火傷を隠すために、制服をしっかりと着こさないといけなかったんだと解ったんだ。
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