夢見な百合の花
「ちなみにこの火傷は、虐待による傷ではありませんから…」

「はっ?」

サヨの返答は、俺の考えていた答えではなかった。

俺の想像では、虐待による傷が原因でサヤが人を怖く感じる様になったと思っていた。でも、サヤの口から出た答えは、虐待ではないと言っている。

「この火傷は、事故で出来た傷です…父の不注意で出来た傷ではありましたが、決して故意でやったものではありませんでした。なので、私は父を恨んではいません…でも母は違ったんです」

そう言うと、サヤは瞳に涙を溜め、声を震わせながら言葉を続けた。

「…この火傷を気にして、私が人と話さなくなったのが原因で、母は父を責める様になったんです。そして……両親は離婚しました。父も、責任を強く感じていたみたいで、離婚を受け入れてしまったんです。……私が、家族を壊してしまったんです」

サヤは言い終わると、瞳に溜めていた涙を流した…。

それが…理由か。誰が悪いとは言えない結果。

自分の娘の人生を狂わせかねない事をしてしまった父親。

娘を傷付けた、夫を許す事が出来ず、別れる選択を選んでしまった母親。

そして…自分の弱さが原因で、家庭を壊してしまったと、思ってしまったサヤ。

起こるべくして起きてしまった、事件だ。誰が悪いとは言い切れない歯がゆさを感じる…。

「そうか…でも、サヤは偉いよ」

「ふぇ?」

サヤは俺の言葉で涙を止め、少し間の向けた様な声を出す。

俺は出来た人間ではないかもしれない…。でも、この小さい背中では背をいきれないであろう十字架を、軽くする事ぐらいは出来ると思う。

俺は感じたまま、思ったことをサヤに話した。
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