夢見な百合の花
「起きてしまった事をいくら悔やんでも過去は何も変わりはしない…俺も、過去を悔やんで生きている人間だから、サヤの気持ちは凄く理解出来る。そしてサヤは、過去の出来事を乗り越える為に、逃げずに自分の足で前を向いた…それが、凄い事なんだよ」

「凄い…私がですか？」

サヤは俺の顔を見つめながら、驚いた表情をしている。

俺は、サヤがサヨに何かしら似ているから、助けたいと思ったと感じていた。でも、今の話を聞いて、実際は違う事に気づいた。

サヤはサヨに似ているんじゃない…俺に似ているんだ。過去を悔やみ、眼に見えない何かに脅え、未来に進みきれない。

そんなサヤに何かしら、感じるものがあったんだと俺は気づいた。

「あぁ…他人から見たら当然の事の様に感じるかもしれない…。でも、自分の身に起きてみると、その第一歩を踏み出すのが、どれだけ勇気のいる事かが良く解る。並大抵の決意では、すぐに歩みを止めてしまうものだ…」

そう…俺は何度も足を止めてしまったから。今も、サヨに会うのをためらい、影で手をこまねく事しか出来ていない。

「でもサヤは今も前を向いている。自分の過去を俺に話し、自分の過去を乗り切る決意を俺はサヤから感じた。それは、なかなか出来る事じゃない…少しは自分に自信を持ってもいいと思うぜ？」

俺は、肩で切りそろえているサヤの髪を軽く撫でながら、サヤに軽く笑いかけた。

サヤはいきなり自分の頭をなでられ、かなりびくついていた。でも…。

「はい…ありがとうございます」

表情を見る限りは、嫌がってはいないようだ。
< 87 / 132 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop