夢見な百合の花
「ヒサジ…サヨがお礼したいみたいだぞ?」

一人考えにふけっていた俺の耳に、カズヤの言葉が聞こえてきた。良く見るとサヨが、俺に何かを差し出していた。

「これは…リンゴ?」

サヨが差し出した物はリンゴの形をしたストラップだった。色鮮やかにビーズを組み合わせ、綺麗な色彩を出している精巧な作りだ…とても、素人の作品には見えない…。

「それは、サヨの趣味でな。間違いなく、サヨの手作りだぜ…」

俺の不思議な表情を見たカズヤが、俺の疑問を解消してくれた。

「そう…か。ありがとうサヨ…大事にするよ」

俺は、この日初めてであろう、笑顔を浮かべサヨに礼を言った。

俺の満足そうな顔を見たサヨも、笑顔を浮かべる。

俺はこの時、さっきまでの自分の考えを振り払ったんだ。確かにここに居るサヨは俺の知っているサヨではない…でも、サヨ本人には変わりはないんだと。

ここに居るのは一年半前の人形の様なサヨではない。それだけでも、俺にとっては大いなる救いである…。

「なぁヒサジ…俺はこれからちょっと、柏木先生の所に顔を出してくる。その間、サヨを頼むな…」

カズヤはそう言うと、俺にサヨの手を握らせてきた…そして。

「一時間後にまた来る…」

そう俺に耳打ちをし、病室から出て行った。

サヨはカズヤが出て行く様子を目で追う…そして、カズヤが病室から居なくなると、俺に視線を向けた。
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