夢見な百合の花
「…元気だと思うのか？」

俺は、必死に歯を食いしばり、ケイタに話しかけた。

俺の体はいま、体中の全神経が、俺の感情を必死に抑えている。この挑戦的なケイタの態度は俺に対する警戒心のあらわれ…。

それが解っていても、俺の理性は目の前の人間を殴り殺そうとしている…。

ジャッジタウンにいた頃も、クールで冷静な人間を装ってはいたが、一つ皮を剝げば、そこいらで暴れている人間と俺は何も変わらない。

サヨの存在がなければな…。

俺にはサヨを助ける事が、何よりも優先だ。どんな事があろうと、俺はこの挑発に堪えないといけないんだ…。

ケイタは俺の言葉を聞くと、前屈みで、俺の顔を下から見上げるような体制をとりだす。

「どうだろうねぇ…俺も、実際に見てみないと分からないかなぁ？」

ケイタはそう言い、また薄ら笑いを浮かべる…。ケイタの両サイドに居る男の人が、そのケイタの態度を見て、深いため息をつく。

「ところで、君は何しにここに来たんだい？もしかして、サヨちゃんの仇打ちに来たのかい？」

「そんな事しても意味がないだろう…お前と違って俺は、そんなくだらない事なんざ考えねぇよ」

この時、ケイタの表情に僅かな変化が起きた…。ずっとケイタの顔を凝視していた俺にははっきりと確認出来た。

薄ら笑いの仮面の下に、確かな動揺が。

だがそれもほんの一瞬だ。すぐに元の表情に戻り、特異な笑顔を浮かべ出す。

「くだらないか。まぁ、俺にとっては、遊びみたいなものだったから、どうでもいいけどな…」
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