365回の軌跡
一週間後、空は雲一つない快晴だった。私は黒沢さんに許可をもらい、自分の休憩時間を利用して佐々木さんを乗せた車椅子を押していた。出掛ける前、佐々木さんは化粧に服選びに驚くほど時間がかかった。どの服も今の佐々木さんにはぶかぶかだが、お洒落した佐々木さんの笑顔はとても輝いて見えた。
「ねぇ、私まだまだ若いでしょ?」
佐々木さんは振り返り聞いてくる。
「正直びっくりしました。佐々木さんてお洒落ですね!私も佐々木さんみたいになりたいです!」
「あら、宮川さんはお上手ね~!でも何もでないわよ!」
「な~んだ…残念」
そんな会話をしながら、私はゆっくり車椅子を押した。後ろから付いてきている旦那さんは足が悪いため、歩くのに時間がかかる。
「ご主人、大丈夫ですかね?」
「大丈夫よ!あの人我慢強いから」
旦那さんを振り返って確認すると思ったより明るい笑顔をしていた。そして笑顔で私を見て、
「宮川さん、本当にありがとう。妻も喜んでるし、私もなんか気分が晴れた感じですよ。」

私達は中央公園に辿り着いた。今、満開の桜が小道にトンネルを作っていた。三人は顔を上げ、桜をしばらく眺めていた。
「き…綺麗」
佐々木さんは思わず呟いた。
「ホントに綺麗ですね。」
私も返す。
周りは平日とはいえ、花見客がちらほらシートを敷いてまどろんでいた。小さく聞こえる花見客の喧騒が耳に心地いい。私は達也を思った。いつもより浄化された思い出だった。一年前、2人で花見に行った。私は子供みたいにはしゃいだ。彼氏と花見なんて初めてだった。達也は優しかったな、あの頃…。懐かしい日の破れそうな日記のページを大切にめくる感じ。達也は私にとって綺麗な思い出になった気がした。
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