365回の軌跡
次の日、事務所に着くと、黒沢さんが私を呼んだ。
「はい?」
「実はね、倉持さんなんだけど、火曜日と金曜日のお昼も宮川さんにお願いしたいのよ」
「私…ですか?」
「そう。今まで入ってた守山さんがもう行きたくないって言ってて…。」
守山さんは非常勤の方だ。確か50代で、優しく真面目なおばさんだ。
「守山さん、あんまりワガママ言わない人なんだけどね…。よっぽど倉持さんがキツいのかな。宮川さん、頼める?」
私は少し間を空け、大きく頷いた。
「はい!」
「ありがとう。助かるわ。倉持さん、どう?相変わらず?」
「はい、頑固さがどんどん強くなってる気がします。私も色々工夫して、なんとか食事をとって頂ける様に頑張ってみます!」
「そうね、今お昼は全然食べてないのかしら?」
私は少し首を傾げ、
「分かりません。昼食を作ってお出ししても手をつけていません。なので食事と薬を机の上に置いてそのまま今は退室しています」
「食べてくださらないのであれば、それしかないわね。お体は拭けてる?」
「それは出来てません。すごい暴れて拒否しますので」
「そっか、分かった。ご家族にも私から報告しておくね」
私は黒沢さんと会話を終えると、時計を見て次のお客様の家に向かう準備を始めた。
< 72 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop